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つばさ きまぐれブログ

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当たり前の事を当たり前にできる大切さ

2021-05-18
   当たり前の事を当たり前にできる大切さ
  
 月曜日出勤すると、事務所にお菓子がおいてありました。
職員に尋ねると「近所の小学生保護者の方から、助けてもらったお礼にということで置いて行かれました」との事。
事情がよくわからなかったので、土日出勤していた職員に話を伺いました
 
 該当職員はすぐ見つかりました。
A職員によると、「たまたま施設の前を車で通りがかった時、小学生の女の子が施設横の道路に服がドロドロで立っていました。このままではかわいそうと思い施設の水道で汚れを洗い、ご家族の連絡先を聞いてお迎えに来られるまでの間お話しをしました。足にケガをしていたけど大丈夫だったかしら・・・」と職員はこう話しました。
 
 その後、保護者の方がお礼に来られた件を伝えると
「あそこで素通りすることはできなかった。当たり前のことをしたまでですよ」と話されました。
 
「当たり前のことをした…」と言われましたが、この当たり前の事をできない人も多いと思います。
 
 一緒にいた他の職員は「車を避けて田んぼに落ちたのかもしれない」と推測。確かに施設の前は直線道路で車の往来も多く、私もその道を毎日通勤で使っています。今回の事で歩行者、特に子どもたちが歩いているときは距離を取り徐行で走行しようと再確認するとともに職員にも注意喚起しました。
 
 職員が私の知らないところで地域の役に立っていたことが、とてもうれしく感じられました。施設のご入居者様に優しく接するのはもちろんですが、地域の方へも同じように接していかねば・・・そう思わせてくれる出来事でした。

今までと変わらぬ自由な暮らしがしたい

2021-03-25
   今までと変わらぬ自由な暮らしがしたい
   
 老人ホームには色々な方が入所してこられます。ご自宅での生活が長い方にとっては、施設になれるまでお時間がかかる方もいらっしゃいます。本来ならばお一人お一人の生活リズムに合わせてお食事を提供したりしたいのですが、多数のご利用者様の生活を見ていくためには、ある程度のスケジュールが決まってしまいます。ホームは毎日のお食事の時間やデイサービスの時間が決まっています。この時間に合わせて動いていただかなくてはならないのも心苦しいのですが、集団生活の為に致し方ない部分があるのも事実です。
 
 昨年秋、A様がつばさに入所されました。数年前までお一人で飛行機に乗り東京に行かれるなど、行動力のある方だとお聞きしていました。しかしその後お病気になり、半身まひで車いすに乗って生活されていました。自宅での生活が困難になり入所されましたが、ご自宅でされていたように「自分の好きな時間に起きて好きな時間にご飯を食べる」という、そういう生活ができなくなってしまいました。しかしA様は極力今までと変わらぬ自由な暮らしをしたい方でした。
 
 
   ホームでの日常
 
 ご飯の声掛けをしてもなかなか居室から出てこないのは日常茶飯事。デイサービスに行ってもお昼ご飯が終わるとドアをドンドンと叩き帰りたがりました。その都度職員が対応するのですが、「アカンアカン!」と叫び粗暴行為まで見られるようになり出しました。失語症で片言しか発することができず、ご本人様も伝えたいが伝えられないくやしさもあったと思います。受容・傾聴の対応もむなしく、そのうちデイサービスの声掛けをしても通わないようになってしまいました。
 
 A様の対応に困り、何度も何度も職員で会議をしましたが打開策のないまま月日は過ぎていきました。
 
 3月には帰宅願望が激しくなり、居室より荷物を玄関先まで運ぶようになっていました。
玄関先は共有スペースであり、荷物を積まれると他の方にもご迷惑が掛かります。A様にそのことを伝え、荷物を居室へ職員が運びますが、また玄関先に持ってこられることの繰り返しで帰宅願望は日々強くなってきました。考えた挙句、ご家族様に相談。一度ご自宅を見に行くことにしました。
 
 
   A様のためにできる事
 
 自宅を見に行く当日、とても良いお天気でした。
自宅までの道のり、A様はとてもにこにこしており上機嫌でした。ご自宅が見えてくると、玄関先にはご家族様とケアマネージャーさんが待っておられました。
車いすを玄関まで着け、そこからは何とか身体を支えながら食堂まで一緒に移動。以前A様がいつも座っていたという場所に座ると、今まで見たことがないような笑顔で何度もうなずかれました。その場にいたみんなで少し話したのち、本人様が部屋の奥の方を指さされました。
「向こうに行ってみたいのですか?」と声かけると
うんうんと頷かれたのです。
移動を介助しながら部屋の奥へ進むと、そこには仏壇がありました。
A様は前に座り、線香に火をつけて拝み始め、私たちも一緒に仏壇に手を合わせました。
 
 その後、昔のアルバムを一緒に見ているとA様の表情がとても穏やかなものに変わりました。A様はお若い時、今で言う「イケメン」と呼ばれる部類で、そのことを話すと「な~ん」とまんざらでもない表情を浮かべられました。しばらくご家族様、ケアマネージャー様と昔話を楽しんだのち、ホームへ戻ることになりました。せっかく家まで来たので帰り道で家の近くにある湧水の名所に寄り、湧き出ていた冷たい水をペットボトルに汲みホームまで戻りました。帰りの車内で本人様に「ホームに帰ってリハビリ頑張りましょう。一人で移動できるようになれば帰る道も開かれます。私たちも一緒に頑張ります」とお伝えすると、うんうんと頷かれました。
 
 
   日常生活へ戻ると…
 
 この日を境にA様は変わりました。
職員に対する粗暴行為は一切なくなり、食事も時間通り出てこられ、デイサービスも最後まで他の方と同じように参加するようになりました。「A様って何かお薬が変わったの?」と尋ねてくる職員もいました。それ程A様の変わりようはすごかったのです。
 
 今回の出来事で私たちは反省しました。
「家に帰りたい」という訴えを、一般的な帰宅願望として簡単にとらえていた事。その帰宅願望の奥にある「仏壇に拝みたい」というご利用者様の気持ちに気が付いてあげられなかった事。もっとゆっくり話を聞いて差し上げることができたのならば、A様も粗暴行為をすることはなかったのかもしれない…そのように感じました。
 
 全ての帰宅願望がある利用者様にこの方法を取ればよいというわけではありません。たまたま今回はうまくいっただけかもしれません。ご利用者様の数だけ、対応があります。お一人お一人に合ったお手伝いをする…そのことの大切さを気づかせてくれる出来事でした。
 
 
 
   新たな目標に向かって
 
今日もA様は他の方と一緒にデイサービスに行かれ、最後までお過ごしになられました。
ぬり絵がお好きで、男性のわりに大きなはみだしもなく、色も考えて塗られ、とてもお上手です。穏やかになったA様には「しっかりリハビリをしていつかは家に帰りたい」と望まれています。一日でも早く本人様の希望する生活が叶えられるように、私たちはA様と一緒に取り組んでいきます。

「最後まで妻と一緒に過ごしたい」ご主人様の強い声に応えて

2018-10-15
「最後まで妻と一緒に過ごしたい」ご主人様の強い声に応えて
 
 今年の夏、I様は居室で90年の生涯に静かに幕を下ろされました。
 
 3年ほど前、I様は他ホームよりご夫婦でつばさに来られました。拘縮もあり色々な部分でのお手伝いが必要でした。穏やかな性格で日ごろから不満や愚痴の一つも言われませんでした。ホールでは車いすにちょこんと座り、目をつぶっておられることがよくありました。「○○さん」と下のお名前を呼ぶと、ゆっくり目を開け「はーい」とかわいらしく答えてくださいました。普段からご夫婦大変仲が良く、ご主人様の姿が見えなくなると「主人はどこですか?」と小さな声で尋ね、職員が「横にいますよ」と声かけると安心され目を閉じるといった生活でした。お部屋ではご主人様が毎朝聖書を読み聞かせてさしあげ、仲睦まじく暮らしておられました。
 
 
 つばさに来られて数年、お変わりなく過ごされていましたが病気が進行、お食事もとれなくなり、最後の時期が近づいていました。
 主治医の先生からは「もってあと3ヶ月位です。今後どうするか話し合ってください」と言われたのが今年の2月頃でした。
 ご主人様と話すと「妻と最後の日まで一緒にこの部屋で暮らしたい。この望み叶えてもらえないだろうか…」と涙声で話されました。
 
 
  「看取りへの挑戦」
 
 つばさでは過去に看取りの経験がなく、手探りの状態でしたが、ご主人の希望をかなえるにはどうすればよいのか、色々と探りました。「看取り」を数多くしているというホームへも話を聞きに行きました。そこでは「看取りは一人一人状況が異なる。負担もあるが、誠意を持って対応すればご家族も満足してくださいます。頑張って」との声を頂き、つばさでも看取りをすることを決意しました。ケアマネさんに状況を説明、最後までホームで過ごすためにするにはどうしたらいいのか等色々と助言を頂きました。結果、訪問看護にも協力を頂きチームで最後まで対応することになりました。
 
 
「最後の瞬間まで充実した人生を送って欲しい」
 
 残された時間はどんどん過ぎていきます。I様につばさが今できることはないか、職員が話し合いました。「お花が好きだったI様をお花屋さんにご案内して、好きな花を庭に植えよう」とある職員が言いました。ご家族、ケアマネにも承諾をもらい、最後に主治医の先生にも伝えると「とてもいいことだと思います。しかし、リスクがあることも理解してください。気持ちはわかりますが、万が一のことを考えるのでお勧めしません」との返事。職員にその旨を伝え話し合いを行いました。結果は主治医の意見を重視し残念ながら中止に。しかし、つばさにはそれでもあきらめなかった職員がいました。I様との会話の中で「お花は何でも好きだけど、特にアジサイが好きと言っていた」と報告がありました。花を買いに行けないのであれば、ご本人様の好きな花を見せてあげよう。そのためには毎日の介助をしっかり丁寧にしよう、そう心に留めて毎日のお手伝いをしました。それでも残された時間を考えると、アジサイの花が咲くころまでは身体が持たない可能性もありました。
 
 
  「アジサイの花を見せてあげたい…」
 
 ご主人様の愛と職員の強い思いが天に届いたのか、アジサイが咲くころI様は声掛けに目を空けて下さる状態でした。梅雨の晴れ間、庭に咲いているアジサイの近くまでI様を車いすに乗せ、砂利の部分は車いすごと3人で抱えて移動。アジサイと一緒に記念写真を撮りました。「これが最後の写真になるかもしれない」との思いが何枚もシャッターを切らせました。
 
 それから約一ヶ月後、I様は天に旅立たれました。もちろん最後の日までご主人様と一緒にホームで過ごされました。ご主人様はもちろん、ご家族からも「最後まで見ていただいてありがとうございました。つばささんにお願いして本当に良かった…」とお礼の言葉を頂きました。この日が来ることを覚悟していた御主人様も、特に取り乱されることはありませんでした。
 
 お一人になった部屋にはI様とアジサイの写真が飾られ、ご主人様お一人の生活が始まりました。「この写真を見てると妻がいつも一緒にいるきもちになるよ。ありがとう」と口癖のように言ってくださいました。それから約2ヶ月。ご主人様も後を追うように静かに息を引き取られました。
 
 
 
 ご利用者様の人生は人それぞれです。
私たちは生まれてくる環境は選べなくても、人生の最後をどのように過ごしたいかの希望は人それぞれあると思います。本人様の思いやご家族の思い、複雑なのは事実です。しかし、本人様の希望に一歩でも近づけることはできるはず。
 ホームでお過ごしいただける最後の日まで、私たちは利用者様の希望をかなえ、充実した生活をしていただけるようにお手伝い致します。
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