つばさ きまぐれブログ
「最後まで妻と一緒に過ごしたい」ご主人様の強い声に応えて
2018-10-15
「最後まで妻と一緒に過ごしたい」ご主人様の強い声に応えて
今年の夏、I様は居室で90年の生涯に静かに幕を下ろされました。
3年ほど前、I様は他ホームよりご夫婦でつばさに来られました。拘縮もあり色々な部分でのお手伝いが必要でした。穏やかな性格で日ごろから不満や愚痴の一つも言われませんでした。ホールでは車いすにちょこんと座り、目をつぶっておられることがよくありました。「○○さん」と下のお名前を呼ぶと、ゆっくり目を開け「はーい」とかわいらしく答えてくださいました。普段からご夫婦大変仲が良く、ご主人様の姿が見えなくなると「主人はどこですか?」と小さな声で尋ね、職員が「横にいますよ」と声かけると安心され目を閉じるといった生活でした。お部屋ではご主人様が毎朝聖書を読み聞かせてさしあげ、仲睦まじく暮らしておられました。
つばさに来られて数年、お変わりなく過ごされていましたが病気が進行、お食事もとれなくなり、最後の時期が近づいていました。
主治医の先生からは「もってあと3ヶ月位です。今後どうするか話し合ってください」と言われたのが今年の2月頃でした。
ご主人様と話すと「妻と最後の日まで一緒にこの部屋で暮らしたい。この望み叶えてもらえないだろうか…」と涙声で話されました。
「看取りへの挑戦」
つばさでは過去に看取りの経験がなく、手探りの状態でしたが、ご主人の希望をかなえるにはどうすればよいのか、色々と探りました。「看取り」を数多くしているというホームへも話を聞きに行きました。そこでは「看取りは一人一人状況が異なる。負担もあるが、誠意を持って対応すればご家族も満足してくださいます。頑張って」との声を頂き、つばさでも看取りをすることを決意しました。ケアマネさんに状況を説明、最後までホームで過ごすためにするにはどうしたらいいのか等色々と助言を頂きました。結果、訪問看護にも協力を頂きチームで最後まで対応することになりました。
「最後の瞬間まで充実した人生を送って欲しい」
残された時間はどんどん過ぎていきます。I様につばさが今できることはないか、職員が話し合いました。「お花が好きだったI様をお花屋さんにご案内して、好きな花を庭に植えよう」とある職員が言いました。ご家族、ケアマネにも承諾をもらい、最後に主治医の先生にも伝えると「とてもいいことだと思います。しかし、リスクがあることも理解してください。気持ちはわかりますが、万が一のことを考えるのでお勧めしません」との返事。職員にその旨を伝え話し合いを行いました。結果は主治医の意見を重視し残念ながら中止に。しかし、つばさにはそれでもあきらめなかった職員がいました。I様との会話の中で「お花は何でも好きだけど、特にアジサイが好きと言っていた」と報告がありました。花を買いに行けないのであれば、ご本人様の好きな花を見せてあげよう。そのためには毎日の介助をしっかり丁寧にしよう、そう心に留めて毎日のお手伝いをしました。それでも残された時間を考えると、アジサイの花が咲くころまでは身体が持たない可能性もありました。
「アジサイの花を見せてあげたい…」
ご主人様の愛と職員の強い思いが天に届いたのか、アジサイが咲くころI様は声掛けに目を空けて下さる状態でした。梅雨の晴れ間、庭に咲いているアジサイの近くまでI様を車いすに乗せ、砂利の部分は車いすごと3人で抱えて移動。アジサイと一緒に記念写真を撮りました。「これが最後の写真になるかもしれない」との思いが何枚もシャッターを切らせました。
それから約一ヶ月後、I様は天に旅立たれました。もちろん最後の日までご主人様と一緒にホームで過ごされました。ご主人様はもちろん、ご家族からも「最後まで見ていただいてありがとうございました。つばささんにお願いして本当に良かった…」とお礼の言葉を頂きました。この日が来ることを覚悟していた御主人様も、特に取り乱されることはありませんでした。
お一人になった部屋にはI様とアジサイの写真が飾られ、ご主人様お一人の生活が始まりました。「この写真を見てると妻がいつも一緒にいるきもちになるよ。ありがとう」と口癖のように言ってくださいました。それから約2ヶ月。ご主人様も後を追うように静かに息を引き取られました。
ご利用者様の人生は人それぞれです。
私たちは生まれてくる環境は選べなくても、人生の最後をどのように過ごしたいかの希望は人それぞれあると思います。本人様の思いやご家族の思い、複雑なのは事実です。しかし、本人様の希望に一歩でも近づけることはできるはず。
ホームでお過ごしいただける最後の日まで、私たちは利用者様の希望をかなえ、充実した生活をしていただけるようにお手伝い致します。