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つばさ きまぐれブログ

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今までと変わらぬ自由な暮らしがしたい

2021-03-25
   今までと変わらぬ自由な暮らしがしたい
   
 老人ホームには色々な方が入所してこられます。ご自宅での生活が長い方にとっては、施設になれるまでお時間がかかる方もいらっしゃいます。本来ならばお一人お一人の生活リズムに合わせてお食事を提供したりしたいのですが、多数のご利用者様の生活を見ていくためには、ある程度のスケジュールが決まってしまいます。ホームは毎日のお食事の時間やデイサービスの時間が決まっています。この時間に合わせて動いていただかなくてはならないのも心苦しいのですが、集団生活の為に致し方ない部分があるのも事実です。
 
 昨年秋、A様がつばさに入所されました。数年前までお一人で飛行機に乗り東京に行かれるなど、行動力のある方だとお聞きしていました。しかしその後お病気になり、半身まひで車いすに乗って生活されていました。自宅での生活が困難になり入所されましたが、ご自宅でされていたように「自分の好きな時間に起きて好きな時間にご飯を食べる」という、そういう生活ができなくなってしまいました。しかしA様は極力今までと変わらぬ自由な暮らしをしたい方でした。
 
 
   ホームでの日常
 
 ご飯の声掛けをしてもなかなか居室から出てこないのは日常茶飯事。デイサービスに行ってもお昼ご飯が終わるとドアをドンドンと叩き帰りたがりました。その都度職員が対応するのですが、「アカンアカン!」と叫び粗暴行為まで見られるようになり出しました。失語症で片言しか発することができず、ご本人様も伝えたいが伝えられないくやしさもあったと思います。受容・傾聴の対応もむなしく、そのうちデイサービスの声掛けをしても通わないようになってしまいました。
 
 A様の対応に困り、何度も何度も職員で会議をしましたが打開策のないまま月日は過ぎていきました。
 
 3月には帰宅願望が激しくなり、居室より荷物を玄関先まで運ぶようになっていました。
玄関先は共有スペースであり、荷物を積まれると他の方にもご迷惑が掛かります。A様にそのことを伝え、荷物を居室へ職員が運びますが、また玄関先に持ってこられることの繰り返しで帰宅願望は日々強くなってきました。考えた挙句、ご家族様に相談。一度ご自宅を見に行くことにしました。
 
 
   A様のためにできる事
 
 自宅を見に行く当日、とても良いお天気でした。
自宅までの道のり、A様はとてもにこにこしており上機嫌でした。ご自宅が見えてくると、玄関先にはご家族様とケアマネージャーさんが待っておられました。
車いすを玄関まで着け、そこからは何とか身体を支えながら食堂まで一緒に移動。以前A様がいつも座っていたという場所に座ると、今まで見たことがないような笑顔で何度もうなずかれました。その場にいたみんなで少し話したのち、本人様が部屋の奥の方を指さされました。
「向こうに行ってみたいのですか?」と声かけると
うんうんと頷かれたのです。
移動を介助しながら部屋の奥へ進むと、そこには仏壇がありました。
A様は前に座り、線香に火をつけて拝み始め、私たちも一緒に仏壇に手を合わせました。
 
 その後、昔のアルバムを一緒に見ているとA様の表情がとても穏やかなものに変わりました。A様はお若い時、今で言う「イケメン」と呼ばれる部類で、そのことを話すと「な~ん」とまんざらでもない表情を浮かべられました。しばらくご家族様、ケアマネージャー様と昔話を楽しんだのち、ホームへ戻ることになりました。せっかく家まで来たので帰り道で家の近くにある湧水の名所に寄り、湧き出ていた冷たい水をペットボトルに汲みホームまで戻りました。帰りの車内で本人様に「ホームに帰ってリハビリ頑張りましょう。一人で移動できるようになれば帰る道も開かれます。私たちも一緒に頑張ります」とお伝えすると、うんうんと頷かれました。
 
 
   日常生活へ戻ると…
 
 この日を境にA様は変わりました。
職員に対する粗暴行為は一切なくなり、食事も時間通り出てこられ、デイサービスも最後まで他の方と同じように参加するようになりました。「A様って何かお薬が変わったの?」と尋ねてくる職員もいました。それ程A様の変わりようはすごかったのです。
 
 今回の出来事で私たちは反省しました。
「家に帰りたい」という訴えを、一般的な帰宅願望として簡単にとらえていた事。その帰宅願望の奥にある「仏壇に拝みたい」というご利用者様の気持ちに気が付いてあげられなかった事。もっとゆっくり話を聞いて差し上げることができたのならば、A様も粗暴行為をすることはなかったのかもしれない…そのように感じました。
 
 全ての帰宅願望がある利用者様にこの方法を取ればよいというわけではありません。たまたま今回はうまくいっただけかもしれません。ご利用者様の数だけ、対応があります。お一人お一人に合ったお手伝いをする…そのことの大切さを気づかせてくれる出来事でした。
 
 
 
   新たな目標に向かって
 
今日もA様は他の方と一緒にデイサービスに行かれ、最後までお過ごしになられました。
ぬり絵がお好きで、男性のわりに大きなはみだしもなく、色も考えて塗られ、とてもお上手です。穏やかになったA様には「しっかりリハビリをしていつかは家に帰りたい」と望まれています。一日でも早く本人様の希望する生活が叶えられるように、私たちはA様と一緒に取り組んでいきます。
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